フールナイト 第1巻-あらすじ&感想-

フールナイト 第1巻-あらすじ&感想-

分厚い雲に覆われ、地上に陽が差さなくなってから100年。ほとんどの植物が枯れ果てた世界で、人類は人間を植物に変える「転花」の技術で酸素を生み出すに至った。



「お父さん、あなたをピアノにします」

  • 第1話「どうすればいいんですか」
  • 第2話「フタ」
  • 第3話「聞けたら」
  • 第4話「特例臨時職員」
  • 第5話「父の霊花」
  • 第6話「せめて」
  • 第7話「ジャマしてる」
  • 第8話「言えよ」

プロローグ

分厚い雲が日光を遮り、人々が時計の針でしか一日を認識できなくなった「常夜」の時代に於いて、枯れ果てた植物の代わりに人間を植物化する「転花」と呼ばれる技術が生まれ、これによって辛うじて酸素が保たれていた。

倫理上、転花を施せるのは重病などによって余命が幾許も無い者に限られてはいるが、転花希望者には支援金として1,000万円が国から支払われる為、貧困世帯の者が家族を養う最後の手段として故意に毒物を摂取し、自殺的に転花施術を受ける事が社会問題にもなっていた。

第1巻 あらすじ


フールナイト 第1巻
掲載ビッグコミック スペリオール
著者
評価★★★☆☆
精神病の母を抱えた状態で工場での低賃金労働に喘いでいた神谷 十四郎(トーシロー)は、いよいよ発作の酷くなった母との生活に限界を感じ、毒物を飲んだ上で「国立転花院」に転化施術を願い出た。

しかし、受付で担当者として現れたのは、トーシローの子供時代の級友である蓬莱 ヨミコだった。トーシローが提出したカルテには「小腸癌ステージⅤ」と記されていたが、確認検査の結果は癌ではなく、血中から多種多量の毒物が検出される。

これを支援金目的の自殺的な転花願であると看破したヨミコは、病院に行くようにトーシローを説得するが、治療費など到底支払えないトーシローは説得を拒否し、再度、転花施術を強く願い出る。

冷静な判断を下せないとしてヨミコがトーシローの担当を他者に委ねた結果、転花届は受理され、トーシローの腹部に植物の種が埋設された。

完全に「霊花」(転花が完了した植物の総称)となるまでの約2年間、心豊かな余生を過ごそうとしたトーシローであったが、せっかく手に入れた支援金を強盗に奪われ、あっけなく無一文に戻ってしまう。

それを見かねたヨミコが食事を奢った際、霊花が時折発する雑音をトーシローが「声」として聴き取れる事が発覚。その次第を転花院の上司に報告したところ、「特例臨時職員」として採用される事となった。

かくして、臨時とはいえ工場よりはマシな給与が保証された職を得たトーシローは、最初の仕事として行方不明となった被転花施術者を捜索する案件を任された。

解説と感想

核戦争や環境破壊によって大量の塵やガスが空を覆い、陽が差さなくなった世界…というのは、マンガに限らずSF作品に於いては昔から使われてきた世界設定ではあります。

で、大抵は「ある一人の人物が持つ能力が人類を救うカギとなる」と、続くワケですが…

本作の主人公である「トーシロー」は特段に高邁なる精神の持ち主でもなければ、人類愛に溢れているわけでもありません。サイヤ人の血を引いてはいませんし、神速の剣技を誇ったりもしません。

どちらかと言えば「チェンソーマン」の主人公であるデンジにそっくりで、ロクに学校も卒業しておらず、DV親との生活が長かったせいでTPOを弁えるのも苦手です。ついでに言えば、金にガメついところもソックリですww

しかし、トーシローがデンジとは違う点が二つあります。

①デンジにとってのポチタのように、他の何は無くとも絶対的に信頼できる「相棒」のような存在が居ない。

②肉体的な活動に関して「約二年間」という具体的なタイムリミットが課せられている。

特に②に関しては、それまでにどんな活躍をしようとも、二年という時間が過ぎれば完全に植物化してしまうワケで、どう考えても本作が主人公を中心としたハッピーエンドで終わるとは思えません。

精々、人間時の活躍に対しての、周囲からの「ありがとう」という言葉ぐらいしか残らないのではないか…

また、作品タイトルである「フールナイト」という言葉も、現時点では解釈に首を捻ってしまいます。英語で表記すれば「fool night」、即ち「愚かな(あるいはバカげた)」であり、作品世界の中のどんな点を形容しているのか判然としません。

世界設定上、あまり大きく広がるとは思えない活動フィールドや、主人公の能力の限定性なども含めて、これからどのような方向に転がっていくのか、気を長くして見守っていく必要がありそうです。

さて、ワタクシの率直な感想を申し上げると「良い意味で絵柄が古い」という点に尽きます。

極力、トーンやコンピューターを使わずに、緻密に細かい線を描き込んでいく…そんなノスタルジックな絵柄が「命の尊さと、生きる事の難しさ」という重たい世界観と相まって、登場人物たちの体温を感じながら1ページずつ、ゆっくりと読み進めていくタイプの作品です。

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